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読者ハ読ムナ読了。素晴らしき人格者藤田和日郎先生。漫画家・編集志望の方必読の良書

主にサンデーで絶賛活躍中の漫画家・藤田和日郎先生。
代表作は「うしおととら」「からくりサーカス」「月光条例」
今もサンデーで「双亡亭壊すべし」で好評連載中!
現段階では一巻しか発売されていませんので、集めるのなら今がおすすめ。

 

そんな藤田和日郎先生は当然のごとくアシスタントを雇っているわけです。
一度藤田和日郎先生のもとでアシスタントを経験した人が、ゆくゆく有名な漫画家さんになっていることが多い。具体的には安西信行先生(烈火の炎・メル)雷句誠先生(金色のガッシュベル・どうぶつの国)福田宏先生(ムシブギョー)等々、漫画家として活躍している先生方を多数輩出している。

 

それに目をつけて編集者と藤田先生が協力してできたのが「読者ハ読ムナ」
つまり藤田和日郎先生の教えには何か”漫画家になる”ことへの大事な教えがあるんじゃないか?
ってことですね。それを探っていくのがこの本のコンセプト。

 

この本は新人作家さんが、藤田先生のアシスタントしてやっていく過程に従って、教えを書いていく流れになっている。なので新人作家の担当さんとかも出てくる。そこで藤田さんなりの、編集との付き合い方とかも書かれている。それに、編集さんは実際の武者さんっていう編集さんをモデルにしているので、その人の編集論なんかもわかる本になっている。

 

だから漫画家志望者・そして現編集・編集志望の人必見だよ。
あらかじめ言っておくけど、当然全部は書かないよ。おすすめの箇所だけピックアップして、かいつまんで書くからね。興味がひかれた人はぜひ買ってほしい。750円は正直安すぎる良書だった。

 

読者ハ読ムナ読了。感想など書いていくよ。

 

漫画を描くコツ

 

キャラを立てるコツ

キャラがたてば勝手に面白い話になる。ボクは感覚的に、特にギャグマンガはキャラが動けばお話も面白くなると感じている口。そうでなくても、漫画や映画の面白さはどこまでいってもヒューマンドラマ。誰かの心が動いて誰かの心を動かす。それが物語の本質だと思っている。

 

でも登場人物たちに魅力がなければ面白さはどこかに行ってしまう。
素人なボクでも大事だと気付いている。でもいざどうやったらキャラが立つか?
に明確な答えは持っていない。

 

藤田先生の、キャラを立てるコツはこれだ。

 

・自分の考えたキャラに「なんで?」と問い続けろ。それがキャラを掘り下げるってことだ!!

 

「なんでなんで?」とそのキャラを掘り下げていくことでそのキャラクターのドラマは生まれていく。
自分の漫画なんだから、登場人物に何を付け足してもいい。そいつの背景を知った人間が、面白いと思ってくれる要素、そいつの物語を聞いた読者が感動してくれるような伏線、すべての伏線をそいつにつけられるんだから「なんで?」と掘り下げていこう。

 

作中にはちゃんと藤田さんが考えた方の例が載っています。
新人が持ってきたネームの主人公は、頭が悪いけど運動が得意だという設定。例のごとくなんで? と藤田さんが聞くわけですけど、新人は答えられなかった。ここで藤田さんが考えた仮の設定が出てきます。

 

「そうだなあ、こいつは小さいころちょっと物覚えが悪かったから、すげえ怖いお父さんお母さんに『お前はバカだ』っていわれて育ってきたとしようか。で、俺はバカなんだな…って思っていたときにテレビかなんかでバカは風邪をひかない、と聞いて『あ、バカは風邪をひかないんだ。じゃあせめて風邪をひかないように元気でいないと、お父さんとお母さんに立つ瀬がない』みたいに思って、両親に認めてもらいたくて、乾布摩擦や運動をして体を鍛えているうちにたくましくなっていった……。こんなふうにしたら、こいつちょっとかわいそうな奴だな、って前提ができる。そしたら物語を動かす重要な要素になるよね。クライマックスで最後に立ちはだかるのはお父さんお母さんかもしれない。『体は丈夫になったけど相変わらずバカだな』って吐き捨てるように言われたら、どんな強い敵と戦うよりも主人公はがくがくきちゃうかもしれない。こういう風に常になんで?と聞くことで、使えるネタが増えていく」

 

もっともだなあってボクは思いましたね。
正直上の設定だけでも、結構面白いですよこれ(笑)
改めて藤田先生すげーって感じた章でした。

 

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藤田流ストーリーを作るコツ

 

藤田先生はストーリーの骨格はシンプルな方がいいと本書でおっしゃっていました。
なぜならいろいろな要素を付けたしやすいのと管理がしやすいから。
先生曰く、どんなにたくさんのアイデアを乗っけても、シンプルで強い物語の骨格は受け止めて、作りやすくしてくれるそう。これがあったおかげで複雑なからくりサーカスも最後まできちんと収めることができたそうです。

 

そんな強い骨格の作り方は
『変化前+変化をさせるキャラクターやエピソード=変化しておわり』
変化前は欠けている状態。友達がいらいないと思っている登場人物や、好きな子と付き合いたいと思っている主人公。

 

そういった欠けている人物が、エピソードや他者との交流で、欠けている部分を埋める。それがシンプルだけど面白いストーリーの流れ。

 

上記の例だと友達のよさに気づく登場人物。好きな子と付き合えた主人公。みたいにね。

 

ちなみに本書では感動させるお話の作り方にも方法論を語っていらっしゃいます。
長くなるので省きますけどね……笑。

 

藤田流絵のかき方

 

漫画界でも、漫画について熱い人物として知れ渡っている藤田和日郎先生。
線の一本一本、キャラの目にも強いこだわりがありました。

いいか。たった一本でも線を引くときに何も考えずに、何も感じずに引いたらダメだ。
君は何をこの絵で表現したいの?何をこの漫画で表現したいの?
それを頭に入れて線を引かないといい絵はかけない。

 

重要なのは目的にあった絵を描きたいと思うかどうかなんだ。
たとえば敵に走って近づく主人公がかっこいい、みたいな絵を描きたいとしようか。
「こいつは今まで鍛えてきた足のダッシュ力で前に進んだんだ!」というかたちの絵を描きたいんだとしよう。だとしたらただかっこよく走っている、ということにはならないはず。
「今まで鍛えてきたこの”足の筋肉”がすごい力を発揮して前に押し出してますよ、という「何を書きたいのか」を意識する構図になるはずなんだ」




 

編集との付き合い方。ダメ出し、ボツくらったとき編。

 

藤田先生の仕事場は『ムクチキンシ』
これを徹底しているそうです。カタカナで表記するあたり最高に藤田先生らしいですね笑。

 

なぜそんなルールを敷いているのかというと、お互いを理解したいからだそうです。何が好きで、何が嫌いで何について興味があるのか……。

 

「しばらくこの仕事場で一緒に仕事をしてきて、映画も何本も一緒に見て、語ってきたよな。だから、俺は君のことある程度わかるよ。君も俺のことある程度わかってきただろ」

 

「心を耕さないと作品は育たない、そう言っておいた。たぶん今まではその言葉の意味はわからなかったと思う。だけど今君は俺から言われた意見は聞く耳を持っているよな。ネームのアドバイスを受け入れられるようになってきている。それは土に水が染み込んでいくように、心を耕しておいたからですよ。つまり君と俺には共通の土台、信頼感みたいなのがあるから作品の話ができる」

 

また藤田さんは本書で「関係性を作らないと言葉は入ってこない」とおっしゃっています。

 

編集からだめだしされたり物語にボツを食らったら恨みたくなる気もわかります。
ボク個人は持ち込みも応募もしたことないので、全部はわかりませんけど、丹精込めて作ったものが思うようにいかなかったらそりゃ不満を持ちますよ。

 

でも藤田さんが言うには、「編集さんのいうことの大半はもっともだ」そうです。
なぜそれが自分を批判しているように聞こえてしまうのか?
それは上記のように信頼関係、共通の土台を作り上げていないからなのだと。
なので意見を意見として受け入れるために、自分の担当さんといろいろな趣味嗜好の話をし、相手を理解し自分を理解してもらうことが大切だと説いています。

 

これももっともですよね。
道行く人にいきなり説教を食らっても心にはまったく響きません。
何を言ってるんだこいつは、ってなりますよ。たとえまっとうなことを言っていたとしても、そのまま受け入れることができる人は少数でしょう。でもこの説教する人が身近な人だったら、見知らぬ人より聞き入れるでしょう?




 

感想

他にもいろいろと役立つ情報がもりだくさんなんですよ~。
もちろん新人漫画家さんに向けたものも、武者さんが語る編集のなんたるかや。
人生において使えることもありましたね。ボクのバイブルになりそうな勢いですよほんと。

 

最後は新人さんが連載を勝ち取って、藤田先生のもとから去る、っていう流れなんですけどね。
もーそれがね。泣けたね笑。
そんな感動を取りに行っている本じゃないですよ? 念のため。
ただ藤田さんなりの漫画論や漫画にかける情熱を語り、武者さんも漫画の作り方を編集目線で語る。
基本はこれです。だけどね、まー藤田さんが新人にいろいろよくしてくれるんですよほんと。藤田さんの元を立ち去る新人の気持ちを思うとつい涙がね……。

 

そして残される側の藤田さんも切なげでね……。
死に別れじゃないですし、会おうと思えばいくらでも会えるのに別れって悲しいものですね。

 

そんなこんなでボクはこの本を1000%楽しめました! ボクがリサイズしてこの記事にしているので、読んだ方々に十全伝わっているかは疑問が残るところです。ですがご心配なく。どんな理論や意見やコツにも必ず例が出てくるので、すんなりと理解できます。納得できるかは人それぞれだと思いますけどね。
漫画家になりたい人や、将来編集の道を歩みたい人。藤田さんの作品を読んで、作者に惹かれている人。

 

漫画家って普段どんな風に仕事してんだ? 何を考えてやっているんだ?
そういう漫画家の舞台裏を見たい方!

プロの仕事への姿勢を学びたい人はぜひ読んでください!!

 

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